大分地方裁判所 昭和52年(ワ)305号 判決 1982年9月06日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 昭和五〇年三月三一日被告大分市白木漁業協同組合臨時総会でなされた別大国道拡幅工事に伴う漁業権消滅補償金配分について被告漁業協同組合役員に白紙一任するとの決議が無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は昭和二四年一二月一〇日設立された漁業協同組合であり、原告は同四二年四月一日から被告組合の正組合員である。
2 昭和五〇年三月三一日午後一時より大分市大字神崎九六五番地の被告組合事務所において、別大国道拡幅工事に伴う共同漁業権消滅補償の件を議題とする被告組合の臨時総会が開催され、補償金一億七六七〇万円の配分について組合執行部役員に白紙一任する旨の決議がなされた。
3 共同漁業権消滅補償金は組合員全員を構成員とする漁民集団に総有的に帰属するものであるから、その配分手続は組合員全員の合意によるか、民法二五八条一項の準用によるしかない。
しかるところ、前記総会決議は、原告の明白な反対の意思表示を押し切つてなされたものであるから違法であり、漁業補償金の配分手続に関する決議としての効力を有しない。
4 しかるに被告は、前記総会決議が有効であるとして補償金の配分を強行し、原告の再三にわたる配分再検討の要請を無視し今日に至つている。
よつて、右総会決議が無効であることの確認を求める。
二 請求原因に対する被告の認否と主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2のうち原告主張の被告組合臨時総会において、別大国道拡幅工事に伴う共同漁業権消滅補償金の配分について執行部役員に一任する旨の決議がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。右決議は、総額一億七六七〇万円の補償金のうち<1>金一二〇〇万円を組合に留保し、<2>金四七〇万円を調整金とし、<3>残金一億六〇〇万円を(イ)漁業依存度七パーセント(ロ)年功二〇パーセント(ハ)資材五パーセント、(二)均等割五パーセントの割合で配分するという基準を前提として、右<2><3>の金員を右基準に基づいて具体的な配分額の決定を執行部役員に一任したものであつて、原告主張のような無条件の白紙一任ではない。
3 同3の漁業権消滅補償金配分方法についての原告の主張は争う。
共同漁業権消滅補償金が漁業協同組合にではなく、入会団体としての性格をもつ漁民集団全体に総有的に帰属するものであるとする点については被告も原告と同意見であるが、このことから直ちに、その配分手続が組合員全員の合意によらなければならないということにはならない。権利の帰属が総有である場合にその処分が全員一致によらなければならないかどうかは理論の問題として決定されるものではなく、慣行ないしはこれを支える構成員の意識如何により決定されるものである。共同漁業権の帰属は基本的には総有とされながらも、水産業協同組合法の規定では、漁業権の取得、放棄および、利用形態を定める漁業権行使規則の制定変更はいずれも総会の特別決議事項とされているのであり、全員一致主義はとられていない。これは、今日の漁協がもはやかつての入会集団と同じような同質性を有せず、全員一致主義を採用し難い実情にあることに基づくものと考えられる。このように、漁業権の取得、処分、管理について総会の特別決議主義がとられていることから、漁業補償金の配分についても漁協の総会事項であり、最終的には多数決により決定されるものであることは今日の漁民意識のもとでは自明のこととして定着している。現に被告組合において過去の漁業補償金の配分手続は全て総会事項とされてきたのであり、本件総会においても、配分方法を総会事項とすることおよび採決という方法で決定すること自体について全員一致主義を前提とする立場からの異論は全く出ていないのである。以上の理由により漁業補償金の配分手続は漁業権の取得、管理、処分の手続とパラレルに、総会の特別決議により決定されるべきものである。
4 同4の事実は認める。
三 被告の主張に対する原告の反論
1 現行漁業法の共同漁業権は明治漁業法の専用漁業権、特別漁業権および定置漁業権の一部をその内容とするいわゆる組合有漁業権であつて、漁民による漁場管理の形態として現行漁業法によつて新しく認められたものであるが、その本質は一定の漁場を共同に利用して営むということにあり、その具体的形態として法人としての漁業協同組合が漁業権をもち、その管理方法を組合員の総意で決め、それにしたがつて組合員にやらせることである。このことを漁業法は、共同漁業権は漁業協同組合が漁業権をもち(同法一四条八項)、組合員が漁業権行使規則の定めるところにより漁業を営む権利を有する(同法八条)と規定している。それ故、共同漁業権の処分、管理方法の制定変更は共同漁業権の帰属主体である組合が行い、その手続は組合の意思決定機関である総会の決議によることとされているのであり、他方、組合員の漁業を営む権利(収益権能)の喪失に対する補償金は組合員をもつて構成される漁民集団に総有的に帰属し、その配分手続は漁民集団の構成員の全員一致の合意によつて行なわれることになる。ただ、漁民集団における具体的意思形成は漁協の総会の場を除いて現実には困難であり、また、漁民集団と漁協とはその構成員を一にしていて総会が法人として意思決定機関であると同時に漁業権収益権の帰属主体たる漁民集団の意思決定機関でもあるから、補償金の配分については総会事項とすることは差支えないが、その場合でも多数決によることはできず、全員一致でなければならないのである。被告の主張は漁業権消滅手続と漁業補償金の対象および帰属主体の問題を混同しているものといわなくてはならない。
2 漁業補償金の配分手続が総会事項であり、多数決で決すべきことが今日の漁民意識の下で自明のこととして定着している旨の被告の主張は事実に反するものであり、被告の独自の見解にすぎない。
また、被告組合においては、本件の場合を除いて過去の漁業補償金の配分はすべて全員一致によりなされているのであつて、三分の二以上の多数決でよいとの慣行は存在しない。
第三 証拠関係(省略)